倉光成紀先生へのインタビュー

倉光先生の現在のご活動についてお話を伺いました。

ー 現在はどのようなことをされているのでしょうか。

NPO法人 阪大理学テクノリサーチの理事代表をしています。

以前、高度な分析を含めた共同研究などを大学で実施する際には、あらかじめ

前年までに様々な手続きを済ませておく必要がありましたので、臨機応変な対応は

できませんでした。そこで、様々なご相談やご依頼に臨機応変に対応できるように、

NPO法人 阪大理学テクノリサーチを設立しました。

ホームページ(http://handairigaku-techno.or.jp)を検索していただくと、業務内容が

ご覧いただけます。

ー ホームページには、一般依頼分析、分析相談、共同研究などが記載されていますね。

依頼の件数が多いのは、高度な分析や、分析に関する相談です。分析相談は、病院で

いうと最初のプライマリーケアのような、来られた患者さんが何科に行けばよいかと

いったものですが、この相談の段階は無償で行なっています。その他に、企業で開発

を考えられている研究テーマについてのご相談があります。例えば、「○○○ という

植物は健康に良いと言われているのですが、その植物のどの成分がヒトのどの部分に

作用して、効能が出るのかを、どのように調べれば良いのでしょう?」といった複雑

な相談です。植物にもヒトにも何万種類のタンパク質(遺伝子)が存在し、それらに

作用する可能性がある代謝物質の候補も何万種類も存在します。現状では、ヒトと

植物のいずれについても、タンパク質の約半分の機能がわかっていません。そのため

に、健康に良い植物の中から効能がある物質を探し出し、ヒトのどこに作用するかを

解明するのは、時間を必要とするであろうことをお伝えしました。ただし、研究テー

マとしてはとても魅力的なので、社内で研究人材の育成を考えておられる場合には、

大学院の博士課程を活用する道もあることなどをお伝えしました。

ー ではNPOとしては契約成立したところからの収入で、理事の給与もそこからですか?

理事のほとんどは名誉教授でボランティアですので、給与は支給されないことになっ

ています。したがって、NPOからの固定した人件費の出費はありません。

受託した分析は、例えば、博士学位を取得後に定職に就くまでの研究者などにお願い

しています。それによって、その方々の研究活動のサポートや測定機器の維持に役立

っており、好循環の仕組みになっています。民間の分析企業との違いは、専門性が

非常に高い分析だけを扱っており、論文や特許にも使えるような測定結果の解釈まで

も行うことにしています。

ー NPOとしてのご活躍の他にどのようなことをされていますか?

1995年頃から高大連携プログラムを実施してきた経験から

https://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/alumni/html/download/vol15_2018.pdf)、

高校生の課題研究をサポートするための高大連携プログラムSEEDS

(Science & Engineering Enhanced Education for Distinguished Students, 

https://seeds.osaka-u.ac.jp) を手伝っています。

大阪大学では数年前に、高校生の課題研究をサポートするための高大連携プログラム

SEEDSを、国立研究開発法人 科学技術振興機構(略称JST)のプロジェクトとして

開始しました。

JSTは、スポーツのオリンピックを担当であることもあり、プロジェクト初期の趣旨

には「とんがった子を育てよう」ということが含まれていて。「高校生、あるいは

中学生の年代でも、オリンピックで優勝できることがあるのだから、研究の分野でも

そういう子がいてもいいのではないか」という発想があったようですね。要は、

やる気のある子の芽を摘まない、やりたければ伸ばしてあげようということです。

ー SEEDS では高校生に大阪大学のラボに来てもらい、研究指導をされているんですね。

高校生が大学へ来ることができるのは、高校が授業が無い土日や休日などですが、

そうなると大学教員の勤務時間との調整をする必要があります。それを考えると、

私のように時間に都合をつけられる人が動けたら、大学全体としても都合が良いの

で、そこをサポートしています。

モデル生物として研究対象としてきた高度好熱菌の中には、機能がわかっていない、

すなわち、これまでに誰も研究してないタンパク質(遺伝子)に関する研究テーマが

多く残されています。それらの研究テーマにはオリジナリティがあり、国際的な論文

にもなりえるのですが、研究者が研究テーマにするのは難しいのが現状です。その

理由の2つは、「機能を発見しても何の役に立つか不明なこと」と、「機能の発見ま

でに必要な時間が不明なこと」です。しかし、高校生の課題研究のテーマとして、

果敢に挑戦し、国際学会で研究成果を発表した生徒さんもおられます。

ー 高校生の課題研究と大学入試の関係についてはいかがでしょうか。

高校生の課題研究の成果が、大学入試に使われることがあるようです。運動部の活動

で、例えば甲子園に出たとか、全国大会のインターハイに出た、優勝した、と同じよ

うに課題研究の成績を使う大学が出ています。そうなると、賞を取るための課題研究

になってしまいます。そのシステムの長所もあるでしょうが、入試を目的とする課題

研究は、「高校生が基礎研究を体験することによって、高校での学習そのものに良い

影響を与える」という趣旨とは矛盾した側面があるようにも感じますので、悩みどこ

ろです。

本来課題研究というのは、授業とか聞いてやるだけじゃなくて自分でやってみて、

ちょっとでいいから研究っぽいものをやってみて、それで自分の日頃している学びを

もう一回考えるというか、そういう研究をしたことの成果がその教科書になって、

それを僕たちが勉強しているんだ、そういう気持ちで勉強してね、みたいな。

SEEDSはそういう意味で、今どんどん動きつつある教育課題に挑戦するプログラムで

す。大学としてそれにどう対応すればいいのかをいろいろやってみるのが私の仕事か

なと思っています。単なるお手伝いではなく、自分なりにいろいろと工夫してみてい

ます。

ー その他の活動はございますか。

本を書きました(タイトル:生命科学が変わる! 〜タンパク質の構造・機能の基礎

から研究テーマ例まで〜、著者:倉光成紀、増井良治、中川紀子(2024年)、

大阪大学出版会)。

その本のポイントは、一冊でタンパク質の「立体構造」と「分子機能」が理解できる

こと、そして、化学を学習した高校生から研究者までの方々に役立つ「一般法則」と

「将来の研究テーマの例」までを提案してみたことです。

「将来の研究テーマ」については、「後は、お願い!」、みたいな感じです。

次回は、倉光先生のことを詳しくご紹介していきたいと思います。